技術者の心得 : 製造技術に関する10ヵ条(その8)

物作りほど魅力と満足度を同時に味わえるものはない

西畑三樹男  森川 愼

金型を造ったら検具も同時に造れ

 毎日やっているTODY活動に持込まれるテーマの中にしばしば検具にかかわる問題がある。 当社の製品を構成する部品の大部分は金型により造られている。従来新機種を立ち上げるとき、 金型の製作は必須の設備として期日までに間に合うように造られてきたが、金型で造られる 部品に対する検具は金型と同時に造られていたか。
 金型はご存知のように使っているうちに摩耗していき、また成形するときの条件によって も品質は変化する。したがって金型ができ上がったとき精密検査で合格しても、その翌日 から造る部品は図面どうりかどうかを検査して次工程へ流さなければならない。
 それでは毎日の検査はどうやってやるのか。ノギスやマイクロで測れる部分は特別な検具 がなくてもまだ検査は可能であるが、部品の中にはノギスやマイクロのような汎用計測器 では測定が困難なものがある。また、仮にノギスやマイクロで測れても能率はあまり良く ない。また読みちがいも発生する。これを解決してくれるのが検具である。
 ここで分かりやすく、車のドアのスキンをプレスしたとき、それが寸法どおりにできてい るかどうかを測るときにどうするかを具体的な例として話をしてみよう。
 昔は検査員が定盤の上にドアスキンを置いてハイトゲージやレイアウトマシン等で測っ ていた。ところが最近は、消費者のニーズに合わせて多種少量生産を在庫ミニマムでやる ために、小ロットの平準化生産を行っている。このために金型交換を一日に何回も行うこ とになる。そこでこの金型交換ロスを少なくするためにシングル金型チェンジ(10分以内) が必要になる。このとき金型交換はシングルでできても、初物品の品質確認を昔ながらの測 定法で時間をかけていては、良否の判定が出るまで機械を止めて待つことになり、折角のシン グルチェンジも意味がなくなってしまう。そこで金型を造るときは並行して検具も同時に造 ってしまうのである。ドアスキンを検具の上に載せれば作業者が即刻良否の判定ができるので、 小ロット生産でも金型交換ロスの少ない生産と、同時に能率の良い品質保証ができるのである。  当社でももちろん検具は作っているが、100%カバーしているだろうか、また作るタイミ  ングは良いか、と言うと必ずしも満足した状態ではないと思う。その証拠にときどき検具  がなかったり、間に合わせの検具を使ったりして問題を起こしていることがある。
 これからはプロジェクトを推進する人も、金型を造る人も、部品を作る人も、金型と検具 は一対だ、と言う考えに変えてほしい。また金型を受け取る人は、検具が一緒でなかった ら受け取らない、と言うくらいの信念が必要である。この考え方は金型だけではなく、そ の他の加工工程でも一緒である。
 当社では新製品の開発のあたっては、SED 開発フローがある。その評価ステップの中で 検具の項目も入っているが、この項目をもっと充実して、良い検具が確実にできるようにしてほしい。