技術者の心得 : 製造技術に関する10ヵ条(その3)

物作りほど魅力と満足度を同時に味わえるものはない

西畑三樹男  森川 愼

牛の耳は何処についているか!

 本田宗一郎さん(本田技研創業者)の話のなかでよく、「お前ら、牛の耳は何処についている か知っているか?」と質問されたことがありました。たいがいの人は頭についていることは漠然 と分かりますが、もっと正確に、角と、目と、耳はどんな関係についているかと言うと、ほと んどの人は?である。
 本田さんは絵を描かれ、大変お上手でしたが、「絵を描くときにはボヤット眺めて描いてい るようではだめだ、なぜそんな形になっているのか、どんな役目をしているのか、その配置 は……と言うようによく観察して描かないと本当の絵は描けないんだ」、と言われた。これ はわれわれに“常に問題意識をもて”と言う教えでした。したがって現場を廻られると、いろ いろなことによく気が付かれ、時にはそれが雷となって落ちることもあった。
 本田さんの受け売りではありませんが、仕事の改善や、品質の向上には常に問題意識を持つ ことが重要である。問題意識のない人は、自分の職場にある問題が、問題であることに気が つかないので、設備故障や品質トラブルが表面に出てから気が付き大騒ぎとなる。
 私が職場を廻ったとき、「調子はどう」と声をかけると、「問題ありません」と何で もすぐ答える人がいますが、それよりも、「こんな問題があります。こんな良いことがあ りました。こんなことが予想されますので、このようにしています」と言うような問題 意識をもった答えが帰ってくるほうが私は嬉しい。
 昔からよく“体の弱い人ほど長生きをする”という。これは自分の体の具合の悪いところ (問題点)をよく知っていて(意識)、日頃から注意し、予防処置をするから長生きができ るということで、逆に“丈夫な人ほどポックリ死ぬ”という例えは、日頃丈夫な人は少しぐ らい体調が悪くても気にしないで、手当てもしないことが、突然死にいたるということだと 思う。
 われわれ企業では“丈夫で長生き”と行きたいものである。そのためには現状に満足せず、 常に問題意識をもって現場を見、気のついたことはどんどん解決するよう心掛けてほしい。
 また困難な問題は上司やスタッフの協力を得ることも必要である。