技術者の心得 : 製造技術に関する10ヵ条(その1)

物作りほど魅力と満足度を同時に味わえるものはない

西畑三樹男  森川 愼

自分の会社の技術に誇りをもて

 昭和50年ごろ、私が本田技研工業で生産技術をやっていた当時、GL-1100という大型 二輪車を新しく始めたことがある。この時、基本要件として、今までの軽量車と違って、 将来の大型、大重量車化を予想して、人間に重量物を持たせない生産設備とした。 その中で組立ての基本ラインとなる、総組み立てラインを、思い切って、オーバーヘッド コンベヤーを採用し、フレームを吊り下げたまま、エンジン、フロントサス、タイヤ、等 の重量部品を自動で組みつけるというラインを考えた。
 当時、BMWの技術者の一行が見学にきたことがあり、大変熱心に工場見学をし、ディス カッションまでして帰られたことがあった。 それから数年たって、ある雑誌を見て ビックリした。なんと、われわれが米国オハイオ州の二輪車工場に作った最新のオーバ ヘット式組み立てラインと、全く同じような写真を見つけたのである。ところがこれが、 なんとあの BMW の最新ラインだったのである。
私たちは(少なくとも私は)ヨーロッパは技術の先輩国であり、特に西ドイツの技術は 優れたものと言う先入観をもってそれまで見てきた。その BMW がわれわれの工場を見学して、 良い点を真似をしようとしているのである。勿論、彼らは優れた技術がたくさんあるが、 反面われわれも自分の技術にもっと自信と誇りを持つべきだ、と感じた。

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話を当社に戻そう。当社は自動車用電装部品メーカとしては、ND社やHI社等と比べれば、 歴史が浅く、規模も小さいと思うが、ただそれだけの事で彼らに負けているとは思わない。 今までに自動車部品専門メーカとして努力してきた技術は決して他社に負けるものではない。 特に円高対応でやった生産性向上活動の中の、手作りの自動化等は他社に誇れるものだと思う。 もし負けているとすれば、それは皆さんの自信と誇りだと思う。その証拠に、あの世界的に名門 のTRWやLUCUSにスイッチの技術供与や金型を売っているではないか。また最近ではイグニッショ ンコイルのクライスラーへの納入を始めた。これらのことは当社の技術が世界的に認められた証拠だと思う。 これからは国内だけでなく海外に進出して仕事をする機会が多くなるが、その際は自分の技術に 自信と誇りを持つことが大事である。またそのためには失敗しても良いから新しい技術に挑戦し、 一つでも多くのノウハウを蓄積しておくことが大事である。